「そういえば、猪代さんって物理の話ばっかりしてるよね。何で? あの人の専攻って、生化学でしょ?」
 千秋が何気なく問いかければ、ユリは苦く笑って視線を泳がせた。
「えっと……それは本人には言わない方がいいと思いますよ」
「どうして? 本人来るなら本人に聞かなきゃ」
 意気込む彼女に気付かれないように、ユリは静かに溜息をつく。猪代瑠璃は専門外の物理ですら、天才的な能力を発揮する――もしそんな彼女の専門などで挑もうとすれば……ユリは首を軽く振り、思い浮かんだ可能性を追いやった。
「お待たせ。あら、珍しいメンバーね」
「そうでしょ、今になってあたしを初めて招くだなんて、何考えてるのかしら。それで、早速質問」
 なに、と瑠璃は千秋を促す。ユリは止めても無駄と、傍観を決め込んだ。
「さっきユリとも言ってたんだけど、猪代さんって生化学の話しないの、なんで?」
「そんなこと?」
 言って彼女はにこやかに微笑む。
「私が得意な分野の話をしても、私がおもしろくないからよ」
「そんなの、やってみなきゃ分かんないじゃない」
「それは私に対する挑戦と受けとっていいのかしら」
 瑠璃は紙とペンを取り出してなにかをすらすらと書き出した。そしてそれをひらりと千秋に手渡す。
 紙にはずらりとアルファベットが並べられているが、何か意味のある羅列とは思えない。
「……なにこれ」
「解いてみせて」
 笑顔で言い放ち、彼女は優雅に去っていった。


 * * *

<瑠璃からの挑戦>
UGUACUCAAUCGGAUGUUUAUCUUCACGCACGCUAACAAUAUCGUAAGU
GCGAUUCGUCAAUCUCGCCGACGUCGGCUAAGACUGCCACUAACUCAUC
GUUCUUCCUCUCCAGGUCGAACGGUCAGCUAGGUACACGUAAGUGCGAU
UCGUCAAUCUCGCCGACGUCGGCUAAGACUGCCACUAACUCAUCGUUCU
UCCUCUCCAGGCACGCAAACAAAUCGUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA



この暗号が解けた方は、下のアドレスの○部分に英数半角大文字で一文字目、五文字目、十一文字目、十三文字目を当てはめて下さい。
http://tukikagesou.suichu-ka.com/○○○○.html



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