「……だから言ったじゃないですか。瑠璃さんほどの天才に、彼女の専門分野で挑もうだなんて……」
「誰も挑むだなんて言ってないじゃないっ」
 とは言いながらも、千秋は瑠璃から渡された紙をじっと見つめている。ヒントは何も与えられていない。どうしたものか。
「よし、決めたっ」
「何をですか。暗号のパターン全てに総当たりでもするんですか?」
「そんなことしないわよ。もっと手っ取り早い方法があるもの」
 それは、と問うユリの前で、彼女はどこからともなく携帯電話を取り出した。
「助っ人を呼ぶ」
「それはいいかもしれません」
 もう突っ込む気にもなれない彼は、投げやりに頷いた。


 突然の千秋の呼び出しにも関わらず、数分と立たずに現れた雅沙羅は、彼女のかいつまんだ説明に「それは大変ですね」と微笑んだ。
「それで、その暗号とは?」
「あぁ、これです」
 解く気もなく眺めていたユリが、紙を廻す。
 暫くじっと眺めていた雅沙羅は、あぁ、と少し苦く笑った。
「これはまた手の込んだ暗号を……」
「でしょー、しかもこんな長いのどうしろって言うのよ」
「いえいえ、長くはないですよ」
「え?」
 ユリは再び紙を覗き込む。一面にずらりとならんだアルファベットの羅列が長くないと、雅沙羅は言うのだろうか。
 彼が彼女を見れば、彼女は書かれた文字の大半を消してしまった。そんな雅沙羅の行動に、ユリも千秋も目を疑う。
「残るのはこれだけですね。短いでしょう?」
「何でこんなに消えるのっ!?」
「遺伝子の九割はジャンクと言われています。……自分の得意分野ですからはりきったんでしょうね」
「ということは、遺伝子暗号なんですか」
 ユリが問いかければ、雅沙羅は頷いた。
「そこまで分かればあたしにだって解けるわっ。ありがとね、雅沙羅!」
「どういたしまして。それじゃあ私はこれで」
 最後までにこやかな笑顔を崩さずに、雅沙羅は帰っていった。
「解読が終わるまで手伝ってもらわなくて本当にいいんですか?」
「いいの、そのくらい分かるわよっ」


 * * *

<雅沙羅が消した後>
AUGUUUAUCUUCACGCACGCUAACAAUAUCGUCGAACGGUCAGCUAGGUAC
ACGCACGCAAACAAAUCGUGA


この暗号が解けた方は、下のアドレスの○部分に英数半角大文字で一文字目、五文字目、十一文字目、十三文字目を当てはめて下さい。
http://tukikagesou.suichu-ka.com/○○○○.html



ヒント1:RNAコドン表(Wikipedia)
ヒント2:最初の文字は残ったり残らなかったり…。




月影草