30分小説 お題「手紙」

「まいどー! 郵便集配人、メイル・キャリア! 今日も元気にお手紙を届けに参上しました!」
 いつもの口上を口に現れた青年は、はい、と持っていた手紙の束を酒場のカウンターの上に置いた。
「毎度毎度ご苦労さん」
「いえいえ、それが自分の仕事ですから!」
 ジャンの労いの言葉に爽やかな笑みを浮かべ、メイルは酒場を後にしていった。
「それにしっても今日はやったら多いな……ん?」
 大半はマスターに宛てられた、恐らくはギルド運営に関する手紙であろう。ばさばさと宛名を見ながらより分けていれば、ふと見覚えのある字に行き当たる。
 宛先はシャルロット。誰からの手紙だろうかと何気なく裏返してみれば、ロベリア=ウルフスベインと裏に署名がある。
「……あ?」
 思わずジャンの額に皺が寄った。
 どうしてロベリアがシャルロットに宛てた手紙を出すのか。「手紙」という形態まではいい。相手がいなければ書置きを残す事だってあろうだろう。だがどうしてそれを、わざわざ郵便集配人に託すのか。
「おや、郵便が届いたのかい?」
「あ、あぁ」
 二階から降りてきた義春に穏やかな声で訊ねられ、ジャンは持っていた手紙をマスター宛の手紙の山と別にする。
 それが、義春の興味を引いた。
「ロッティに手紙……でもこの字は」
「ロベリアの。だろ?」
 ジャンに台詞を取られ、あぁと彼は微笑む。
「なんでだろうなぁ。二人ともここ数日外泊はしてないってのに……って、あ」
 手を止めたジャンが持つ手紙を、義春は覗き込む。宛先はいま話題に上っていたロベリア。やはりその字には二人とも見覚えがある。
「これはリアの字だね?」
「答え合わせすっか? ……正解」
 裏に書かれた名前はリアのもの。そしてもう一通、リアがロベリアに宛てた手紙も、その中に入っていた。
「一体何がやりたいんだ、あいつら?」
「文通、かな?」
「文通?」
 義春の言葉に、ジャンは思いっきり変な顔をする。ほぼ毎日顔をつき合わせているというのに、文通なんてする意味が分からない、とでも言いたそうである。
「あんただったらするのかよ、キールとか相手に?」
「……それは面白そうだね」
「群青!? 頼むからあんたはそんな妙なことはやらんでくれ!?」
 思わずジャンが叫んだ調度その時。
「ただいまー。咽渇いちゃったよ、ジャン君レモネードでも作ってくれないかなぁ?」
「きんきんに冷やしたものをお願いしますね」
「私も私も!」
 酒場に帰ってきたのは三人。文通(?)をしているメンバーだ。
「今から冷やせってか、時間かかるっての! っと、お前ら三人、手紙届いてるぞ」
「あ、本当ですか!? やったー!」
 手放しに喜ぶロッティに、義春が優しく笑いながら手紙を差し出す。ふふふと喜ばしげに笑いながら、彼女は受け取った手紙を手に、二階の自室へと走り去ってしまった。
「これはリア、こっちはロベリアだね」
「ありがとうございます」
「ありがとー」
「で?」
 そう問い詰めるのはジャン。
「で、とは何のことですか」
「それだけじゃ、さすがにおねーさんも何のことか分からないなぁ」
「だからその手紙のことだよ! あんたら一体なにやってんだ」
 彼の台詞にリアとロベリアは顔を見合わせる。そして小首を傾げてはジャンに向き直った。
「何って、文通ですよ」
「そーそー。手書きの手紙もらうとさぁ、なんか嬉しくない?」
 その気持ちは私にも分かるね、と義春がのんびり相槌を打つ。わなわなと震えているのは、ジャンただ一人。
「せめて住所が違う奴とやれーっ!!」


2011/7/9


夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画