30分小説「入れ替わり」

 「お、お帰りー……って、え?」
 ドアの軋む音に顔を上げたアルトが思わず凍りつく。
 彼と一緒にトランプゲームに興じていたキールとヤマトも、扉の方を見た。
 そこにいたのは身長の高い、緑の髪の女性。アルトもキールもヤマトも、その顔に見覚えはある。だがしかし、どうしても彼らが知っている人物と、入ってきた彼女が繋がらない。
「えへへ、どうかなぁ、似合ってる?」
 嬉しそうに笑った彼女はご機嫌でターン。スカートの裾が、ふわりと広がった。
「今ね、マリリンさんの所にいってコーディネートしてもらったんだぁ。ロベリアさんはいいよねー、身長高いし体型もいいし……」
 うっとりとしながら言う彼女に、三人は声を潜めた。
「ふむ。まるで本人ではないような物言いだな」
「なんだなんだ? ロベリアの第二人格でも出てきたか?」
「んなわけあるか。第二人格でも同じ身体だろ」
「じゃあナントか妄想? ついに自分が持ち回ってる薬にやられたってか」
 なるほど、そういうことはあるかもしれない、とキールとアルトは納得する。
「確かに、ロベリアなら二重人格になる薬とかも持っていそうだな」
「あいつ妙な薬ばっか持ってるからな、十分にあり得る。……なわけねーだろっ、ヤマト、大嘘こくのもいい加減にしろっての。あいつ以上に薬に詳しい奴いねぇから、そんなヘマするわけねぇってのっ」
「おやぁ、おねーさんがどうかしたかなぁ?」
 声がしたのは入り口とは反対側にある裏口の方。口調は明らかに今話題に上っていたロベリアだが、声は――シャルロットだった。
 シャルロットは何故か、いつものお菓子が一杯のカバンではなく。植木鉢などというものを手にしている。
「あー、ロベリアさん見て見て! この服どう思う? ロベリアさんにすっごく良く似合ってると思うんだけどっ」
「うん、すっごく素敵だねー。だけど実用的じゃないかなぁー?」
「実用的じゃなくていいのっ」
 もー分かってないんだから、と「ロベリア」が頬を膨らませる様子は、どこか幼くて。
「それにしても小柄なのっていいねぇ。いつもだったら通れなくって遠回りする所を難なく通れたよー」
 にこにこと言う「シャルロット」は、良く見れば葉や土があちらこちらについている。
「お前ら何があったんだーーーっ!!」
「どうやらシャルロットとロベリアが入れ替わっているらしい」
 アルトの絶叫に、キールが冷静な分析結果を披露する。
「ま、よくあることだな」
「よくあることでたまるかっ」
「アルト君ってば、いつものことながら元気だねぇ」
 にこやかなロベリアの声。あーあ、と残念そうなシャルロットの声も聞こえてくる。
「ありゃ、戻っちゃったか」
「もう少し身長の高さを堪能したかったのに、なぁ……。残念です」
「アルトに突っ込まれると元に戻るとかって薬だったのかぁ?」
「うん、今度はそういう風に改良してみるね」
「しなくていいっ。てかそれは改良なのかっ!?」
 彼らの反応をよそに、シャルロットはロベリアに近寄り、彼女を見上げた。
「ねぇねぇ、この薬ってまだある?」
「あるよー」
「じゃあ」
 戻ってしまったことに不服そうだった彼女は、今やきらきらとその瞳を輝かせている。
「あのね、今度はリアさんと入れ替わってみたいのっ。固定化魔法、一回でいいから使ってみたいなぁ、なんて」
「そっかそっか。リアちゃんとは自分で掛け合うんだよー」
「うん!」
 元気に頷いて、彼女はすぐに二階へと駆け上がっていった。
「どっちがましだろーな、アルト」
 にやにやと笑うヤマトに、何がだよ、とアルトが笑みを引きつらせる。
「リアの悪戯と、シャルロットの悪戯に決まってんじゃん」


2010/10/11


夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画