依頼仕立ての招待状

「ますたー、何かクエストない? 何でもいんだけどさ」
「珍しいな、お前が。そうだな……これなんてどうだ?」
 ぱらぱらと帳簿をめくったマスターは、一枚の紙を引っ張り出してくる。
「ふーん、悪霊が出るって屋敷の調査依頼ね。だけどよぉ、マスター。この住所、おかしくね?」
「どこがだ」
「だってこれ……」
「あぁ、すまん。年齢指定付きのクエストだったな。お前には無理だ」
「は?」
 ヤマトの手の中から依頼書を取ろうとするマスターからそれを死守するとと、彼はもう一度よく眺めてみる。
 確かにそこには、「二十歳以下」と明記してあった。
「期限は明日だ。シブリー、ロッティ、クロイ。早速行ってくれるな?」
 名指しされた三人が、えーだとか何で僕がだとか、それぞれ違う反応を示す。そんな彼らよりも過剰な反応を見せたのは、アルトだった。
「え、マスター、その依頼、こいつらだけでやるのか? 大丈夫なのか、それ? なんなら俺も……」
「年齢制限付きだと今言ったばかりだろ。お前は自分の年齢を言ってみろ」
「……21。たかだか一歳だろっ!?」
「おや、アルトさんは今日も元気ですね」
 今からどこかにでかけるのか、今まで遊んでいたらしいフォークをリアが揃えてカウンターに置く。
「あぁ、暇ならお前も言ってこい。ひよっこ三人じゃあこいつが心配らしい」
「私がですか? まぁ、いいですけど」
「リアさんが行くなら私行かない。だって今日はマリリンと約束あるし」
「大丈夫。そんなに時間はかからん」
 何故かマスターに追い出されるようにして、四人はクエストに乗り出した。

 依頼を出してきたのは、ウィンドベルの街。
 街外れにある屋敷は現在主がおらず、気付けば何かが住み着いているようだとのこと。その何かを調査することが今回の依頼内容だ。
 ただし、決して手出しをしてはいけないのが絶対条件。
「どうして手出しをしたらいけないんでしょうね。本当に悪い魔物とかだったら、退治すべきなんじゃないですか」
「うーん、その退治が必要かどうかを見極める為の依頼なんじゃないかな?」
「なら、あの年齢制限はなんだ」
「うーん……リアさん、どう思う?」
 調査対象の屋敷を見上げていたリアは、シャルロットの言葉ににこりと笑う。
「行ってくれば分かると思いますよ。私は外で待っていますので、何かあったら呼んでください」
「怖気づいたのか?」
「まさか。私は適任でないと思っただけです」
 笑顔のまま彼女は数歩下がる。それは、自分は行かないという意思の表れだった。


「おかしいよ、絶対。何かあるって、この依頼」
 手出しをしてはならないと言われ、本を置いてきてしまったのが悔やまれる。シブリーやクロイがいるからどうにでもなるとはいえ、やはり心細い。
 屋敷の中に入り、いくつかの部屋を見て回ったが、今の所なにもいない。けれど屋敷は広く――まだ見ていない部屋数は十を軽く超えるだろう。
 屋敷の中の薄暗さに目が慣れると、色々なものが見えてくる。メインエントランスの向かいに並んだ三枚の肖像画だとか、四隅を飾るように置かれたランプであるとかには埃が積もり、主がいないのは本当なのであろう。
 天井の隅の方とかまで探してみれば、蜘蛛の巣も張っているかもしれない。探してみる気にはなれないが。

 かたん

 微かな物音に、シャルロットはぴくりと身体を強張らせる。
「ねね、今の音って?」
「僕じゃないですよ」
「音を立てるような物などない」
 あっさりと言い切られてしまい、シャルロットは顔から血の気が引いてくのを感じた。
「じゃあ……」
 恐る恐る振り返ってみれば、なにやら大きな影が見える。気配は、感じない。
「えっと……」
「……」
 シャルロットとシブリーは顔を見合わせ、問答無用でクロイのローブを掴み。
「手を出せないなら逃げるしかないじゃないっ!」
「クロイさん、頼みますから魔法なんて使わないでくださいねっ!」
 エントランスはもちろん背後。近くの部屋に逃げ込もうにも、何故か鍵がかかっている。仕方なく三人は走り続け、
「ここ、開いてるよっ!」
 二階、一番奥の部屋へと駆け込んだのだった。


 場所を戻して、ものかきギルドの酒場。
「ところでヤマト、さっきの依頼さぁ……」
「なんだなんだ? お前年齢偽ってでも行きたかったってか?」
「違うっての! ほら、なんか住所がおかしいとか行ってたじゃねぇか」
 んなこと言ったっけ、とヤマトはとぼけてカウンターに突っ伏した。
「言った! お前、自分の発言くらい責任持てっ!」
「自分で確認した方が早いんじゃないのか?」
 ヤマトを締め上げにかかったアルトの前に、マスターがぺらりと先程の依頼書を差し出した。
「サンキュ、マスター。んで、住所……あ、これって、この間俺たち行ったとこじゃね? 確か、誰かが泣いてるとか言って……でも、何でまたここの依頼が? まさか俺たちがやったミラードール以外にもなんかいたのか!?」
 やっぱり俺も行くと、がたりと音を立ててアルトが立ち上がった、その時だった。出ていった四人が帰ってきたのは。
「ただいまー」
「お帰り! 大丈夫だったか、お前……ら?」
 問いかけるアルトが戸惑ったのも当然。何故かシャルロットやシブリーの手には大量のお菓子がしっかりと握られていたのだから。クロイは袖に手が隠れて分からないが、何故かリアまでもが小さな袋を持っている。
「中に入ってもいないというのに私までいただいてしまいました」
 ぽつりと告げる彼女は、微妙に不機嫌そうで。
「……は?」
「だから大丈夫だと行っただろ。どうだった?」
「もー、すっごく怖かったんだよ。見えるのは影だけで気配ないとか、本当あれとやりあうことになったらどうしようって思った!」
「そうですよね。実体もなさそうに見えましたし、クロイさんの魔法しか効かないんじゃないかって、僕も思いました」
「それでね、一番奥の部屋に逃げ込んだらクラッカーでしょ? びっくり」
 要領を得ない二人の話に、アルトは?を飛ばす。とりあえず四人とも無事であったらしいということだけは、彼も理解した。
「だから結局なんだったんだよ、これは!」
「アルトさん。そろそろ心配とツッコミ以外にも頭を使ったほうがいいのでは?」
「そーそ、もう少しその依頼書じっくり見てやれよ」
 大あくびしながらのヤマトの言葉に、アルトはもう一度まじまじと依頼書を眺めた。そこでようやく覚える違和感。
「あ……これ、依頼じゃない……!?」

 依頼に見せかけた、街主催のハロウィンパーティ。
 その報酬は、多量のお菓子。



<言い訳>
ハロウィンということで、突発で書いてみました、時間がなかったんです。思いついたのが前日なので勘弁してください、すみませんorz
えぇっと、アルト君、ロッティちゃん、クロイ君、ヤマト君、シブリー君お借りしました、ありがとうございます。

なにか問題ありましたら、ご連絡ください。



夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画