イチオシ! 4

 問い返す間もなく、気分的に「押し付けられた」ような気分のアルトは、誰も通りかからないのをいいことに、しばらく廊下で呆然としていた。
 それでも階下でアルトを待っている仲間がいると思うと、彼の頭は動かなくても彼の身体は動き出す。まずはこの包みを部屋に置いて、そして階下にいるメンバーと合流しなければならない。
 機械的な動きで彼は廊下をカクカクと歩き、ぎこちない動作で自分の部屋のドアを開け、壊れ物を扱うかのようにそっと、手の中にあった包みを机の上に置いた。
 未だ現実に追いついていない彼の脳が、当然のごとく部屋のベッドを占拠している黒い影に気付くはずもない。だが、気付かれなかったヤマトが、きっちりと包装されリボンまでかけられた、明らかに「プレゼント」なそれを見逃す訳はなかった。
「どーした、お前にもついに春が来たのか? モテるねぇ、嫉妬するぜ?」
 にやりと笑ってからかいの言葉をかけてみるものの、アルトの反応は今ひとつ鈍い。
「あぁ……最近大分暖かくなってきたよな。ついこの間春一番も吹いたし、あー、そろそろ花見の時期か……」
「お前の場合花見の準備はいらねぇだろ。そこに隠し持ってる酒持ってくだけだろ?」
 それもそうか、と生返事。
「お前さ、脳みそ腐ったか?」
「これからの時期は野菜も痛みやすく……んなワケあるかっ」
 ようやく我に返ったアルトが、ようやくにやけた顔のヤマトに突っ込みを入れる。
「おーおー、それはよろしゅうことで。お前自身がついに消費期限切れにでもなっちまったのかと思ったぜ? そうなりゃ、相手の子はかわいそうになぁ」
「なんだその消費期限って! 俺は食いもんじゃねぇってのっ! ついでに相手の子って何の事だよっ」
 勢いで突っ込みを入れてから、彼はヤマトの視線に気付く。それはまっすぐに、机の上に置かれた白い包みへと向けられていて。気付いたアルトの顔は思わず、赤くなった。
「違う、違うってのっ!!」
「そんなに必死になって否定すんなよ。かわいそうだぜ? 色々と」
「色々って何だ、色々ってっ」
 生暖かい視線で、ヤマトは分かってるから心配するな、と爽やかな笑顔で頷いた。
「図星なんだろ、そーいうことなんだな。いやいや良かったじゃねぇか。おめでとう、アルト。末長く幸せにな」
「こんの……! 勘違いを訂正する気すらないお前は、さっさと俺の部屋から出てけーっ!!」
 いつにもまして大音量のツッコミは、アルトの狭い部屋の中で反響したようにも思われる。いつものごとく寝転がっていたヤマトだが、思わず起き上がり、けれどやはりやる気のない様子で拍手を贈った。
「いやぁ、ご苦労さん。それで……」
「お前今暇か? 暇じゃないな、ならお前は置いていく」
 誰からなんだよ、と聞こうとしたヤマトをざっくりと遮って、アルトは一方的に告げる。
「アルト君ってば冷たーい。なんだよ、なんか面白いことでもやるのか?」
「少なくともお前の考えてるような面白いことでないことは確かだと……」
 言い切ろうとして、アルトは端と気付く。
 ロベリアにリア、それにヤマトといえば。いつぞやの一騒動を起こしたのと全く同じメンバーではないか。やっぱり、ヤマトは置いていこうと彼は決意した。
「なんでもない。お前は自分の部屋に帰れ」
 きつい口調で言い放ったにも関わらず。
「りょーかい。付き合うわ」



<言い訳>
イチオシ最後は、やっぱりアルト君とヤマト君のペアで。
アルト君の部屋に入り浸るヤマト君のイメージ、すっかり定着してしまいました(笑)
今回はひとまずここで終了ということで、キャラを貸してくださった皆さん、ありがとうございました!
もう少し余裕があったら、全員コンプとかやってみたかったのですが…さすがに無理でしたorz



夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画