イチオシ! 3

「おや、なんだか楽しそうにしているね。今から何かあるのかな?」
 キールが怪しげな会話を繰り広げる二人をじーっと見つめていれば、そんな声が背後からかけられる。振り向いてまず確認するのは顔色。今日は調子がよさそうだと、彼は一人ふむと頷いた。
「『ぴくにっく』というものに今から行くらしい」
 それはいいね、と義春は目を細める。
「楽しそうだね。ジャンが今忙しそうに料理しているのは、それでかな。お前も行くのかい?」
 問いかけられ、キールは首をかしげる。
「俺も一緒に行っていいんだろうか」
「はは、何を遠慮しているんだい。人数は多い方が楽しいだろうし、あの二人だってそれは知っているよ」
 義春の言うとおり、行きたいと言えば連れていってはくれるだろう。丁度時間を持て余していた所だし、行ってみてもいいかもしれないと彼は思う。
「お前も行くのか?」
「私? いや、私が行っても邪魔になるだけだろう」
「遠慮をするなとお前自身が言ったばかりだ」
 真顔で告げられて、義春は苦笑した。確かに、キールの言う通りなのだけれども。
「私は止めておくよ。まだ風は冷たそうだしね」
「だが、たまには『にっこうしょうどく』すべきだとマニュアルにある」
「日光消毒?」
 突然出された単語に、今度は義春が首をかしげる。
 そもそも義春の体調が悪いのは体質的なものであり、消毒程度でどうにかなるわけではない。そのことを知っているのか知らないのか、キールは大真面目に頷いた。
「日光に当たると病気もすぐに治るらしくってな。前々から思っていたんだが、お前は部屋で寝ているばかりであまり外に出ない。お前の病気が治らないのは、日光を浴びる時間が足りなさすぎるんじゃないのか」
 色々と間違っているような気もするが、そうやって心配してくれていることはありがたいと、義春は微笑んだ。
「なんならアルトに風除けの結界を張ってもらって……」
「それではアルトの負担が大きいだろう……」
 義春の指摘に、それもそうだなとキールは考え直す。
「本当に、私のことは気にしなくて大丈夫だよ。こうやって、皆が笑顔で集っている中にいられる、それだけで私は幸せだから」
 ――だから、後で土産話でも聞かせておくれ。
 と、キールがなにやら納得する。
「分かった、土産を持って帰ってこよう」
「……え?」
「ぴくにっく の帰りに街に寄って、酒でも買ってくる。遅くなる前には帰ってくるから、待っていてくれ」
 そして彼はどこか誇らしげにぐっと親指を立てる。
「『にっこうしょうどく』はできないが、それならば『あるこーるしょうどく』ができる」
「ありがとう、キール。待っているよ」
 義春が楽しげに笑う理由がよく理解できず、キールがマニュアルを引き直したのは、また別の話。



<言い訳>
イチオシNo3はこのお二人、群青さんとキールさんで。
途中でキールさんの口調が分からなくなっただとか、これは一体どんなノリだよと自分で突っ込んだとか、その他色々はオフレコにしておきます。
どこまで続くんだろうこれ。



夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画