イチオシ! 1

 手の中には小さな包み。白い包装紙に、青いリボンをかけた、それ。
 ふと引き出しの中を何気なく覗いたら出てきてしまった。そう、「出てきてしまった」という表現が一番ぴったりだ。
「……しまった」
 赤い服の少女は苦く口の中で呟いて、それを見下ろす。包装紙にさりげなく入っている店の名前は「フィエンネ」。シャルロットが好きなお菓子屋さんだ。
 本当はもっと別の物にするつもりだった。けれど何を渡せばいいのか良く分からなかった。ギルドのメンバーにはさりげなく何がいいだろうかと相談してみたが、彼なら何でも喜んでくれるだろうというのが全員揃っての認識で。
 それで結局選んだのはウィスキーボンボン。当日には間に合うようにと、数日前には用意していたというのに。
 照れ隠しに言ってやろうと思っていた台詞だって、いくつもあった。だというのに。
 結局当日はどたばたしてしまって、渡すタイミングが掴めなかったのだ。部屋に置いておけばよかったのかも知れないが、ヤマトに見られるのも嫌だった。後から何を言われるか、分かったものではないから。
 軽く溜息をついて、彼女はカレンダーを見遣る。バレンタインだなんて、もう暫く前のイベントだ。中身は悪くなっていないだろうけれど、今更渡すのも躊躇われる。
「おーい、リア。今から皆でピクニックに行こうって話が出てるんだけど。お前も来るか?」
 突然開いた扉に、突然かけられた言葉に、彼女は思わず持っていた包みを背後に隠す。
 扉の方を振り返れば、そこにいたのはまさしく、彼女がそれを渡しそびれた、白い法衣に身を包む青年。
「突然入ってくるなんて、マナー違反でしょう」
「あ、悪い。だけどノックはしたぞ? 聞こえなかったのか?」
「……」
 どうやら、聞いていなかった彼女の方が悪いらしい。
「ですけど、せめて返事は待つべきでしょう。……で、ピクニックですか? いいですね、今から準備しますので少し待っていていただけますか」
 いいけど……と言いながら彼が気にしているのは少女の背後。不自然な隠し方をしてしまったと、彼女は少し後悔した。
「何持ってんだ?」
「あぁ、ちょっと……とある人に渡しそびれた物が」
 手に持っていても体温で溶けてしまう。明らかにバレてしまっているのだから、隠す意味もないじゃないかと、彼女はそれを机の上に置いた。
「渡しそびれた? なら今からでも渡せばいいじゃねぇか」
「そうなんですけど、やっぱり当日でないと意味がありません」
「なら、俺が渡してきてやろうか? てか当日っていつだったんだよ」
「二月の、十四日です」
 あー、ちょっと前だな、と彼は呟くものの、それ以上の反応はない。それが何の日であるのか、思い当たらないらしかった。
「そうですね、じゃあお願いできますか、アルトさん」
「あぁ、いいぜ。誰に渡せばいい?」
 差し出された小さな包みを受け取りつつ、彼は笑う。
 彼の笑顔に、彼女もくすりと微笑んだ。
「ものかきギルドのオカン的存在、白い法衣をまとった青い髪の心配性な僧侶に、です。ではよろしくお願いしますね」
 質問する間を彼に与えることなく一気に言い切って、彼女はするりと彼の脇を抜ける。
「いつも、お世話になってます。渡すの、遅くなってすみません」
 小声で呟いて、振り返ることなく彼女は階段を駆け下りた。



<言い訳>
応援したいコンビは何組もありますが、まずはこの二人! 身内贔屓ですみません、でもアルト君+リアのペアも、きっと上位に食い込むに違いない!
アルト君、いつもリアがお世話になっております、今後もよろしくお願いします。
そして遅ればせながら、バレンタインおめでとうございました…(笑)



夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画