かみさまガタリ・間


 カミサマ? そんなものについて語っているなんて、暇なんだね。
 え、ものかきギルドがそんな話題を? それならば高尚な話題に違いがない。
 この僕もその話題に参加させてもらえるとは、なんと光栄なことだろう。


 ヒトはカミに救いや安息を求める。
 そしてカミの為にと剣を振るう。
 だけどそれは間違ってやしないかい?
 救いを与えるモノが争いを望むわけない。
 争いを好むカミが救いの手を差し伸べるわけがない。

 僕はね、ヘクトール。様々な物語を語ってきた。
 カミに選ばれただの村人から一躍英雄になる伝説から、カミの逆鱗に触れ永遠に罰せられることとなる王の神話まで。
 皆等しく「神」と呼ばれてはいるけれど、語られる物語によってカミは違う。
 物語の数だけカミは存在するというのに、どのカミも僕にはその存在が信じられないんだよ。

 だからといってヒトが信じる「神」の存在を否定なんてできないよ。
 誰が何を信じるかなんて個人の自由だし、そこを強制できるほどに僕は偉くないからね。
 だから僕はヘクトールの信じる、常に必死になって親身になって頑張ってくれるようなカミも、シュネーの信じるような怠惰なカミも否定しない。
 ものかきギルドの皆が信じるカミは否定できるわけもないし。
 色んなカミサマがいていいじゃないか。人によって、状況によって、違うカミサマがいたっていいんじゃないのかな。

 じゃあ僕はどんな神を信じてるのかって?
 いやだなぁ、ヘクトール。君は何を聞いていたのさ。僕はそんな存在なんか信じられないって、先に言ったじゃないか。
 僕はただ、その存在を否定も肯定もしない。それだけだよ。

 ヨランド、君も何か言いたそうだね?
 何、僕の言うことはどこまで本気でどこまで嘘かが分からない?
 あはは、面白いことを言うね、君も。嘘や虚構を交えながらも物語を盛り上げていくのは、吟遊詩人必須の才能だよ。
 要するにいてもいなくてもどっちでも良いだけじゃないかって?
 そう身も蓋もない要約はしないでほしいね。全くもってその通りなんだから。
 否定? しないよ、面倒だし。

 カミがいるとしたら何を願うのかって?
 そうだな…え、願い事ってやっぱり一つだけ? それは困ったな、決められないぞ。
 仕方ないな、じゃあ「ものかきギルドが繁盛しますように」で。
 ここのギルド? いいよ、どうでも。





夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画