Trick or ...?


 「次は誰の所に行こう? やっぱりジャンの所かなぁ。おいしいお菓子、一杯もらうんだ!」
 ねー、と言いながらシャルロットはくるりと振り返る。彼女の目に映ったのは、今まで会ったギルドメンバーから貰ったお菓子を落とさないようにとおたおたしているシブリーと、遥か後方に立ち尽くしたまま一歩も動かないクロイ。
「あれぇ、クロイ、どうしたの? 早くこないと置いてっちゃうよー?」
「本当だ、クロイさん、どうしたんですか?」
 シャルロットの言葉にシブリーも振り向く。今まで不機嫌そうに、だけれども無言でついてきていたというのに、今になってこのイベントから降りるとでも言い出すのかと不安になる。
「……っ」
「え、何? 聞こえないよ」
「……っの赤い魔女がっ」
 赤い魔女――恐らくリアのことだろうが、リアにはまだ会ってすらいない。突然何を言い出すのだろうかと、シャルロットとシブリーの二人は首を傾げた。
「そういえばリアさんの所にもまだ行ってませんね」
「じゃあ今から行ってみる?」
「こっちから出向かなくてもそこにいるんだろっ」
 クロイが呼びかけに応えるように、軽い足音を立てながらどこからともなくリアが現れる。笑顔は変わらないけれど、どことなく楽しそうだ。
「あらあら、三人お揃いで。今から誰の所に行かれるんですか?」
「ジャンの所にでも行こうかなーって」
「あぁ……」
 何が楽しいのか、彼女はくすくすと笑う。
「ジャンさんの所に行くのは、もう少し待って上げて下さい。まだ、準備中だったみたいですから」
 歌うように三人に告げ、彼女はやはり軽い足取りで去っていく。
「待て、リアっ」
 緊迫感溢れるクロイの声にリアは一度だけ振り返り――
「その衣装、似合ってますよ」
――彼の神経を更に逆撫でするような台詞だけを残していった。
「本当にどうしちゃったのー? 置いてくよ、本気で……って」
 引きずってでも次に行こうとシャルロットがクロイに触れ――弾かれたように笑い出す。
「え、え、え? 一体何が……?」
「やだー、え、これってどうなってるの? シーツだけ固定されちゃったの?」
「……」
 不機嫌そうな沈黙が、シャルロットの言葉を逆に肯定する。
「あれ、逆にいたずらされちゃいましたか。まあ、そういうこともありますよね」
「じゃあ、次、誰の所に行こう?」





夢裏徨「月影草
ものかきギルド企画