「新月学園の一日。」

きーんこーんかーんこーん。
今日もいつもと変わらないチャイムの音が平和な一日の始まりを告げる。
「っはよー!!ヴァルの奴まだ来てねーよな!?」
翔はいつものようにチャイムと同時に教室に駆け込んできた。そんな心配するならもっと早く来ればいいのに、と識は思いつつ読んでいた本を閉じた。
「おはよう、翔」
「お前朝からテンション低い」
そうかな、と首を傾げる識に冬哉が苦笑しながら言う。
「ほら翔、朝礼始まるから席ついて」
「別にいいじゃん。あいつまだきてねーんだし」
翔は口を尖らせてそう言うと、肩にかけていた鞄をぼすっと落とすように床に置いた。
「あ、おはよう、翔」
背後から声がして、翔は驚いて振り向いた。
「鈴、お前驚かせんなよ!びっくりしたじゃねぇか」
翔の後ろの席についた鈴はノートをぱたんと閉じて言った。
「悪かったわね、気配なくて。一時間目の数学の宿題終わってなかったからやってたの」
やった?と尋ねる鈴に対し、みるみるうちに顔が真っ青になっていく翔。
「やべぇ・・・忘れてた!冬哉、頼む、写させてくれ!」
「ダメだよー。宿題は自分でやらなきゃ」
泣きつく翔の頼みを、爽やかに微笑んで冬哉はあっさり断った。
「識!頼む!」
識は微笑んだ。
「お昼に購買のメロンパンと飲むヨーグルト」
「わかった!それで手を打とう!」
だめだよ識ー、と冬哉のとめる声も聞かずに識は自分のノートを翔に渡した。
「返すのは授業後でいい。全部覚えてるから」
その時、教室の前の扉が開いて、ヴァル先生が入ってきた。
「みんな、おはよう!連絡事項の前に今日は理科のテストを返すぞー。50点きってる奴は今日の放課後補習なー」
えー!!と教室に巻き起こるブーイングを無視してヴァル先生はテストを返していく。
「相楽ー」
「はい」
「塔夜ー」
「・・・はい」
「鳴神ー」
「へーい」
「弥上ー」
「はーい」
「連絡事項は進路希望調査用紙まだ提出していない奴は早く出すこと、以上だ」
早く一限の準備しろよーと言うと、ヴァル先生は教室を出て行った。

「どうだった?」
鈴が問うと、三人は答えた。
「100」
「僕は92。さすが識」
「今回は暗記すればいいだけだったから」
「21点、補習けってーい。お前は?」
翔に聞き返されて、う・・・と詰まりながら鈴は答えた。
「・・・49」
「どんまい!」
自分の仲間をみつけてどことなく嬉しそうに言う翔に鈴は思わず叫んだ。
「翔に言われたくなーい!!」

きーんこーんかーんこーん。

叫び声が授業開始のチャイムとかぶって消えていく。
(あぁ、今日も平和だなー)
目の前で騒いでいる友人達を見てそんなことを思う識なのであった。




宵知さんの管理される「黒猫亭」の五周年記念。
おめでとうございました!




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月影草