凡人ゆえの葛藤



「俺、何してんだろうなぁ……」
「……ん」
 人の話を聞いているんだかいなんだか分からない、マイペースな相棒相手にぼやく。
 ユリとエベルの二人が、森から壮絶な帰還を果たしたのが数日前のこと。一時は危ぶまれたエベルの「容態」もユリの機転で落ち着き、今は普段通りの生活が戻っている。
 彼らは初めての実践で現実を見てしまった。その上でこの世界に踏み入ることを決めた、彼らの決意はいかなるものだっただろう。
 失敗すれば自分も駆除される対象になりかねないそんな世界に、危険を承知で飛び込めた理由は何なのか。
 そんなことを考えると、大した動機もなくこの道を選んだ自分には、堂々と彼らの横に並ぶことなどできない。
「才能もねーし、やる気もねーし、自信もねーし、俺、なんでこの道選んじまったかな……」
「……楽しそう」
「は?」
 ジークは言葉が少ない。相棒になってから長いから、単語からでも彼の意図を拾えるようにはなってきた。が、未だにさっぱり分からないときだってある。今みたいに。
「楽しそうって、俺が?」
 問い返せば、彼は無言で頷く。
「おい、どこをどー見たら俺が楽しそうになってんだよ。今の聞いてたか? 真面目な顔してぼやいてんだぞ? 愚痴ってんだぞ? それをお前は楽しそうの一言で片付けるのか?」
「ヴィルは、楽しそう」
 ジークは強調するかのように言葉を繰り返す。
 何なんだ。エベルだとかユリだとか、アロイスにこれを愚痴っても絶対肯定しか返ってこないことが分かっているだけに、どうしようもない。
「ヴィルは分かってる。力は敵わなくても、支えようとしてる。それが重要。それで十分。それに、現に止めてない」
 ぼそぼそとそれだけ言うと、ジークはどこからともなく引っぱり出した干し肉を齧り始めた。そんな真剣さを感じられない彼の行動に、彼の言葉をどう受け取って良いのか分からない。
 彼を見たまま、どう返そうかと悩んでいたら、ジークは変な方向にそれを受け取ったらしく、またもどこからともなく引っぱり出した干し肉を俺に差し出してきた。
「……なんだよ」
「欲しいのかと」
「……じゃあ貰っとく」
「ん」
 訳も分からず受け取った干し肉を、ただ噛み締める。
「俺、このままでいーのか?」
「ん」
 それが肯定なのか、ただの相づちなのか、やっぱりさっぱり分からなかった。



The Old Magic
月影草