冬空の下



「冬はやっぱり星空が綺麗よねっ」
「確かに冬のが綺麗に見えるって言うけど……だからってこんな寒空わざわざ天体観測しなくたって……」
「いいじゃない、綺麗に見えるんだから」
 あたし、勝、桜の三人は、神社の石段にならんで腰掛けて、空を見上げていた。
「そういや、最近は星って見えにくくなってるんだっけ? なぁ、神」
 突然話題を降られた桜はついていけずに、ごめん何、と口走る。
「ほら、最近は街の灯りが明るくて星が見えにくくなったって話」
「そうなのかな……よく、わかんないや」
 彼女はそう言って、曖昧に微笑んだ。
「もしかして勝って、視力悪い? こんなに綺麗に見えてる星空も、ほとんど見えてなかったりして?」
「んなことはねぇけど……ってか、お前の視力のが異常」
「女の子に向かって異常だなんて、失礼ね」
 はいはい、と彼は面倒くさそうに手を振った。女の子の扱いをさっぱりわかっていない、どこまでも失礼な奴だ。
「ここは、星が見えにくいなんてことは、ないんじゃないのかな」
 桜がぽつりと呟く。
 彼女が星空に何かを必死になって探しているように見えるのは、あたしの気のせいか。
「それもそうだな。田舎だし」
「そっか。桜は都会の方にいたこともあるんだっけ?」
「うん。夜に星空なんて見上げる余裕、ないように思えたな」
 ということは、都会の子供は星空なんて知らないのか。それはあまりにも残念すぎるだろう。
「夜中も車とかすごいスピードで走ってんのか? 都会って怖いなぁ……」
「……それは場所にもよるんじゃないのかなぁ……?」
 勝の勝手なイメージに、桜は苦笑する。
「あんたは都会を何だと思ってんのよ」
「怖い所」
 真顔で返されて、思わずあたしは頭を抱えた。
 ……いかん。なんであたしの方が奴のペースに巻き込まれてるんだ。あたしのペースを取り戻さねば。
「そんなあんたは大学上京すればいいんじゃないの? 都会でその腐った性根、叩きなおしてきたら?」
「そっくりそのまま返すぞ」
「あたしはいいの。柳原の一人娘だし、都会に行って事件にでも巻き込まれたら困るじゃない」
「……お前こそ都会をなんだと思ってんだよ。ってか、俺が事件に巻き込まれても問題ないって言うのか」
「今の世の中、女の子には危なすぎて良くないわぁ」
 今度は勝の方が頭を抱えた。
 ふっ。勝った。
 勝ち誇ってやれば人の話に乗っても来ずに、やっぱり空をじっと眺めている桜の姿が目に入る。
「桜。何か星座でも探してるの? 一緒に探してあげよっか?」
「……どうしようかな。すっごく有名な星座だから、自分で見つけられないのも癪なんだけど」
「どれ探してるんだ? オリオンとか?」
「カシオペア? でもカシオペアは逆向きよねぇ」
 勝と二人で桜が何を探しているのか延々と考え始めれば、観念したように桜が口を開く。
「……あのね、北斗七星が見つからないの」
 思わず空を見上げて一拍。
 勝と顔を見合わせて二拍。
 桜の真剣な表情を見て三拍。
「えぇーっ、それ本気で言ってるのっ⁉」
「明らかに本気だろ、顔見てやれよ」
 フォローを入れたつもりらしい彼も、必死に笑いを堪えている。
 あたしは堪えてやろうだなんていうヤサシサなんてないから、思いっきり笑い転げてやった。
「やっぱり笑う! だから言いたくなかったのっ」
「笑うなって、言う方が無理だから」
 まだ笑いたいのを堪え、なんとか呼吸を落ち着けつつ、深呼吸。
 よし、落ち着いた。次はツッコミだ。
「桜。桜が見てる方の方角、言ってごらん?」
「ホウガク?」
「神。太陽が昇るのはどっちだ?」
「え? 太陽? えっと……」
 彼女は混乱したように、あたしと勝とを交互に見る。
「あっちは南。北斗七星なら、逆の方向だよ?」
「……あ」
 桜のショックを受けた表情がかわいくって、勝と二人、ついまた笑い出してしまった。



Eternal Life
月影草